イチョウの理由 【弁護士 中村 悦子】

 秋の紅葉シーズンも終わり,冬本番を迎えようとしています。日本各地で色鮮やかな紅葉を楽しまれた方も多いのではないでしょうか。  ところで,先日,秋の風物詩であるイチョウに関する新聞記事を読みました。街路樹として植えられたイチョウから路上に落ちたギンナンの発するにおいについて,自治体への苦情が相次いでいるという記事です。    確かにギンナンの発するにおいは独特かつ強烈であり,苦痛を感じる方も多いのかもしれません。しかし,他方で,神宮外苑通りや横浜の日本大通りといった町の中心部に,見事なイチョウ並木が存在することも事実です。ではなぜ,強烈なにおいを発するギンナンを落とすイチョウが,あえて町の中心部に多数植えられているのでしょうか? その理由が気になって,少し調べてみました。    まず,紅葉する葉の美しさ,その景観上のインパクトから,町中にイチョウ並木が多くつくられているということはいうまでもありませんが,更にイチョウは,特に排気ガスに強い性質があるために,街路樹に用いられるようになったという側面もあるようです。  そして,何よりも大きな理由は,イチョウの幹や葉は多くの水分を含んでいるため,火の手から建物を守ってくれるということだそうです。「大火の際にはイチョウは水を吹く」という言い伝えも,古くから日本各地に多く残っているほどだそう。それでイチョウは現在でも,防火地域の街路や日よけ地の周囲に植えられることが多く,町の中心部で最もよく見られる樹木となったようです。 考えてみれば,東京都の木もイチョウですね。都のホームページにも,「イチョウは古代植物の生き残りといわれ,日本と中国の一部だけに現存している木で,公害や火にも強いため,街路樹としても使われています。」と記されています。当事務所のある墨田区にも,戦火にみまわれ幹は黒くこげながらも,まだまだ立派に頑張っているイチョウの古木があります。 

 こうしてイチョウは,秋の町並みを彩るだけではなく,一年を通じて地域の方々の生命や財産を火事から守る役割を果たしてくれている。そんなことを考えながらあらためてギンナンのにおいをかいでみると,また違ったものに感じられるかもしれません。