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東京東部法律事務所の弁護士による活動報告

「相続法改正」パート7 【弁護士 大江 京子】

相続人以外の寄与を考慮する制度の創設

 

1 改正内容(改正法1050条)

 相続人以外の被相続人の親族が、被相続人の療養看護などにより、被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした場合に、相続開始後、相続人に対し、寄与に応じた金銭の支払いを請求できる制度が新設されました。

 

2 現行法制と改正理由

 

⑴ 相続人やその他の親族が経済的な援助(扶養料の支払)をした場合

 被相続人が要扶養状態にある場合には、扶養義務者が被相続人を扶養した場合には、現行法上も、他の扶養義務者に対する立替扶養料の求償が認められています(各扶養義務者の分担割合を定める審判の申立(家事事件手続法第182条第3項))。また、 扶養をした者が相続人である場合には、立替扶養料の求償という手段のほかに、寄与分の申立てをすることも可能です。

 また、扶養義務を負わない親族が被相続人を扶養した場合には、その親族は、扶養義務者に対し、事務管理又は不当利得を原因として、立替扶養料の請求をすることができると考えられます。

⑵ 相続人やその他の親族が被相続人に対して療養看護等の事実行為をした場合

 療養看護等の事実行為をした者が相続人である場合には、被相続人の死亡後に寄与分の申立てをすることが可能です。しかし、療養看護等の事実行為をした者が相続人でない場合には、現行法の下では、親族に対する求償請求を当然に認めるのは困難とされています。

 相続人の配偶者の貢献を配偶者の寄与として認めた審判(東京家裁平成12年3月8日家月52・8・35)もありますが、仮に相続人が被相続人より先に亡くなっていた場合は、配偶者の貢献を相続手続きで考慮することはできません。

 

⑶ 以上より、相続人以外の親族が、療養看護などの事実行為により貢献した場合に、相続に際してその貢献に報いる方策を創設することとなりました。

   

3 要件(改正法1050条1項)

  被相続人の親族(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)のうち、相続人、相続放棄をした者、相続欠格事由のある者(民法891条)を除く者

 無償で

 療養看護その他の労務の提供をし、

 それにより被相続人の財産の維持又は増加し

 そのことが特別の寄与と認められること

 

4 権利行使期間の制限(改正法1050条2項)

 特別寄与料の請求は、特別寄与者が、

 相続の開始及び相続人を知ったときから6か月(時効)

 又は

 相続開始の時から1年間(除斥期間)

 内に権利を行使しなければなりません。

 

5 権利行使の方法(1050条1項、2項)

 協議

 特別寄与者は、相続人に対し、寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)

 の請求ができ、当事者間の協議により特別寄与料を定めます。

 

 ⑵ 家庭裁判所に処分を求める申し立て  

  協議が整わないか又は協議をすることができないとき、特別寄与者は、協議に代わる処分を求めることができます(改正家事手続法216条の2)

 

6 特別寄与料の算定(1050条3項~5項)

 ⑴ 家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して特別寄与料の額を定める。

 ⑵ 特別寄与料の額は、相続財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。

 ⑶ 相続人が数人いる場合には、各相続人は、相続分に応じて、特別寄与料を負担する。

 

7 若干のコメント

 現行法上相続人に対して審判で寄与分が認められるケースは多くありません。特に療養看護ほかの労務提供に関して満足できる寄与分が認められるケースはほとんどないと言っても言い過ぎではないのではないでしょうか。認められたとしても、金額は多くないのが実情です。

 今回の改正で創設された制度についても要件が厳しく、「特別の寄与」を裁判所がどう判定するかは基準が定かではありません。もちろん協議によって、円満に解決できれば問題はないのですが、新制度がどの程度機能するのか、懐疑的にならざるを得ません。

 特別寄与者の範囲についても、議論がありました。今日、家族の形態は多様化しており、戸籍上の親族に限るということ自体に批判があります(衆参法務委員会の付帯決議参照)。

 世界に例のない高齢社会の中で、近い将来日本は誰もが介護(被介護)と無関係ではいられない日が来るともいわれていますが、そのための社会保険であるはずの介護保険は、保険料のアップと給付削減の改悪が続いています。また、国が思い切った介護報酬の見直しをしないために介護現場で働く人たちの賃金労働時間などの改善は一向に進みません。

 介護の問題は、国家が責任を負い社会全体で支えることが必要であり、家族や親族の一部が負担できる問題ではありません。今回の改正の特別寄与者の制度は、その実効性のみならず根本的な発想自体に疑問なしとはしません。

 ただ、そうはいっても相続人間(その他の親族も交えて)親の介護をした人としない人の不公平感がうずまき、相続に関する争いを長期化させている実態があることもまた事実です。親が要介護状態となって初めて介護の現実に直面するのでは遅いといえます。親が元気なときに家族全員で、もしもの時の介護体制について、支出の面も含めて話し合うことが必要でしょう。無理のないように介護保険その他の社会的資源を上手に使うこと、報酬や実費についてもあらかじめきとんと決めておくことが、争いの種を摘むことにもなるはずです。

(続く)

弁護士活動コラム   2019年03月20日   admin

「相続法改正」パート6 【弁護士 大江 京子】

第1 一部の分割(改正法907条1項2項3項)

 

1 改正内容

 共同相続人が、遺産の一部の分割の協議及び審判を申し立てることができることが明文化されました。但し、一部分割の結果が、他の共同相続人の理益を害するおそれがあるときは、申し立ては却下されます。

 また、一部分割に反対する共同相続人は、遺産全部分割の審判を申し立てることが必要とされています。二つの申し立ては、併合して審理されます。

 

2 現行の実務と改正理由

 共同相続人全員が、同意して一部の遺産の分割をすることは現行法上も可能です。(ただし、被相続人は、遺言で5年を超えない期間を定めて分割を禁止することができます。908条)

 しかし、一部分割の協議が整わないときに、家庭裁判所に一部分割の申し立てをすることができるかどうかは争いがありました。

 民法906条は、遺産分割の基準として、「遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。」と規定しており、また、相続人の特別受益や寄与分も考慮して公平な遺産の分割になるように配慮されています。一部の分割をすると、結果的にこれらの事情を十分に配慮できないのではないかという危惧もあります。他方で、争いのない預貯金や現金などの分割をとりあえず先にしてしまいたいという需要もあることは事実です。

 そこで、改正法では、一部分割の審判を認めることを明らかにするとともに、一部分割が他の共同相続人の利益を害するおそれがあるときには、これを認めないことができるとして、調整しました。

 

3 一部分割の効果

 一部の遺産を残余の遺産から分離して、一部分割協議の内容に従って、相続人が確定的に取得します。ただし、後に残部の遺産分割協議をする際には、一部分割の内容も斟酌されて、各相続人の具体的相続分を定めることになると思われます。そうでないと、一部分割が他の共同相続人の利益を害するおそれがあるときにはこれを認めない(改正法907条2項)とした法の趣旨に反するからです。

 

第2 遺産分割前に遺産が処分された場合の規律(改正法906条の2)

 

1 改正内容

 コラムパート5で説明したとおり、今回の改正で、相続財産に属する預貯金債権については、上限額を設けて、遺産分割前に、相続人が単独で払い戻しが受けられるようになりました(改正法909条の2)。

 この規定との関係で、同条によらない預貯金の払い戻しほか遺産に属する 財産が遺産分割前に処分された場合の規律について新たに規定されることになりました。すなわち、処分をした相続人を除いた共同相続人全員の同意があるときは、処分された財産も遺産分割時に存在するものとみなすことができる(遺産分割の対象とできる)とする規定が新設されました(改正法906条の2)。

 どういう意味なのか、多少理屈っぽい話になりますが、説明していきます。

 

2 現行制度と改正理由

 

 ⑴相続の効果と遺産の共有

 相続が発生(被相続人が死亡)すると、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」(民法896条)のが原則です。積極財産だけではなく、借金のような消極財産も承継します。そして、「相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属する。」(同898条)とされ、「各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。」(同899条)と規定されています。

 民法899条の「共有」(共同所有)の意味については、諸説ありますが、判例は、民法物件編に規定されている249条以下の共有と変らないとする立場です(最高裁昭和28年(オ)第163号同30年5月31日第三小法廷判決・民集9巻6号793頁参照)。

 判例のように共有の意味を解すると、各相続人は、遺産分割前であっても、各自の相続分に応じた持ち分については、自由に処分できるとするのが、理論的な帰結になります。

 

⑵では、遺産分割前に、各自の持ち分(あるいは持ち分を超えて相続財産)が処分されたとき、遺産分割調停・審判で、そのことは考慮されるのでしょうか。

 この点につき明確に判示した最高裁判決は見当たらず、学説上も、定説がない状況とされています(法制審議会 第20回部会資料7頁)。    

 例えば、α)持分譲渡の対価についても代償財産として遺産分割の対象とすべきという見解や、β)一部分割がされたのと同様に、当該遺産を取得したこととして、その具体的相続分を算定すべきであるという見解もある一方で、γ)遺産分割は、相続開始時に存在し、かつ、現存する遺産を対象とする手続であることから、相続開始の前後に、一部の相続人が、無断で第三者に遺産である不動産を売却して代金を隠匿したり、無断で被相続人名義の預金口座から預貯金の払戻しを受けたりしたとしても、そのようなものは、遺産分割の対象となる遺産の範囲には属さないし、遺産分割事件における分割審理の対象とはならない、これらは、不法行為又は不当利得の問題として民事訴訟により解決されるべき問題である、ただし、相続人がその事実を認め、現存遺産に含めて分割の対象とすることに合意すれば、その相続人が処分した預貯金等を取得したものとして処理することが可能となるにすぎないなどと論じる見解があります。

 最後のγ)がこれまでの実務の扱いとなっています。

 

⑶しかし、この判例・実務の立場を貫くと、民法が相続財産の分割は、物件編に定める共有物の分割とは異なる手続きによる(民法906条以下)とした意味が半減したり、相続人間の不平等が生じるなどの問題もでてきます。

 

具体的な事例で検討してみましょう。

 

【事例1】具体的相続分の範囲内で権利行使がされた場合

 

〇相続人 A、B(法定相続分1/2ずつ)

〇遺産が 1400万円(1000万円(不動産)+400万(預金)

〇特別受益 Aに対して生前贈与1000万円

 

 このケースでは、Aの具体的相続分は、(1400万+1000万)×1/2-1000 万=200万となります。Bの具体的相続分は1400万×1/2=1200万となります。

 特別受益分を考慮して実際に取得する金額が同じとなり、公平な分割といえます。

 では、Aが相続開始後に密かに200万円を引き出した場合、現在の実務の扱いのように、遺産分割で、それを考慮しないとどうなるでしょうか。

 遺産分割時に実際にある財産は、1200万ですので、これに特別受益分1000万円を持ち戻して各自の相続分を乗じて相続分を出すと、各自の相続分は1100万円になります。そうすると、Aの具体的相続分は、1100万円-1000万円=100万円、Bの具体的相続分は、1100万円になります。

 しかし、Aは、実際には、100万+200万円(引出し分)+1000万円(特別受益分)=1300万円を取得できることになり、不当な引き出しをしたAが得をすることになります。

 

【事例2】(具体的相続分を超える権利行使がされた場合)

 

 では、先の例で、Aが相続開始後に密かに500万円を引き出したとして、現在の実務の扱いでそのことを遺産分割で考慮しないとどなるでしょうか。

 遺産分割時に実際に存在する遺産は、900万円ですので、

Aの具体的相続分は、(900万+1000万)×1/2-1000万=▲50万

Bの具体的相続分は、(900万+1000万)×1/2=950万で、遺産分割における取得額は、Aは0円、bは900万円となります。

 

 実際に取得するのは、Aが、1000万(特別受益)+500万(引き出し分)=1500万円、Bは、900万円となり、不当な引き出しをしたAが得をすることになります。

 

 現在の実務の立場では、BはAに対して、不法行為に基づく損害賠償なし、不当利得返還請求をするということになりますが、しかし、持ち分の処分は自由というのが、判例実務ですので、【事例1】(具体的相続分の範囲内で権利行使がされた場合)は不法行為にはならず、また、引き出しが法律上の原因を欠くことにはならないので、不当利得返還請求もできないのではないかということになります。【事例2】(具体的相続分を超える権利行使がされた場合)においても、持ち分の範囲内の処分については同様のことがいえます。何より、遺産分割で考慮されず、民事訴訟を提起しなくてはならないというのは、迂遠であり、Bにとっては負担です。

 

 以上のような不公平を是正するために今回の改正では、遺産分割前に、遺産に属する財産の処分が行われた時に、相続人間の公平を図るために、処分をした相続人を除いた共同相続人全員の同意があるときは、処分された財産も遺産分割時に存在するものとみなすことができる(遺産分割の対象とできる)とする規定が新設されました(改正法906条の2)。

 

3 改正法906条の2の要件と残された実務上の問題

⑴要件

 相続開始時に被相続人の遺産に属する財産が、遺産分割前に処分されたこと(処分された財産が遺産分割時に存在するとみなすことにつき)共同相続人全員の同意があること(ただし、共同相続人の一人または数人が財産を処分したときは、処分をした相続人の同意は不要)

 

⑵適用場面

ア 相続開始時、被相続人の遺産に属する財産があったこと

  遺産相続開始前の処分(いわゆる使途不明金問題を含む)については、本条の適用外です。

イ 処分

 本条の処分には、預貯金の払い戻しその他の債権の行使、動産、不動産の売却のほかに、共有持ち分の差し押さえと売却決定、遺産の棄損・滅失行為などが含まれるとされています。

 なお、909条の2で認められる預貯金の払い戻しは、本条の適用から除かれます。909条の2が適用されるときは、払い戻しされた預金は、確定的に処分者の取得となり、遺産分割の対象から外れます。但し、その場合であっても、全員の同意(処分者を含む)があれば、遺産の前渡しとして遺産分割の対象にすることは許されますし、遺産分割協議、調停、審判では、預金払い戻しの事実とその使途を斟酌したうえで、相続人間の不公平が生じないように具体的相続分を定めるようにすべきことは、本コラムのパート5を参照してください。

ウ 持ち分を超える処分について本条が適用されるか

 相続人が処分を行ったケースでは、自己の持ち分の範囲内での処分に限らず、持ち分を超えた処分についても本条の適用されると考えます。

 ただし、共同相続人の一人によってその共有持分を超える財産処分がされた場合には,その超過部分については,原則として無権限者による処分として権利移転の効力が生じないため(最判昭和38年2月22日民集17巻1号235頁参照),本条を適用するまでもなく,当然に遺産として存在することになるものと思われます。例外的に,即時取得(民法第192条)や準占有者に対する弁済(民法第478条)等によって共有持分を超える処分が有効となる場合があり得るため,そのような場合については、本条が適用されます。

 なお、前述のとおり、共同相続人の一人によって,他の共同相続人の同意なくして,自己の共有持分以上の財産処分が行われた場合については,他の共同相続人は,自己の(準)共有持分を侵害されたものとして,処分をした共同相続人に対し,不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができるとするのが判例・実務の立場ですので、本条の適用は、自己の持ち分の範囲内で処分が行われた場合に限るとする考え方もありそうです。しかし、そうのように解すると、特別受益や寄与分がある場合などには,相続人間の実質的な公平を貫徹できないし、自己の持分を処分した場合には相続人間の公平を図り,他人の持分を処分した場合には相続人間の公平を図らなくても良いという実質的な理由も見当たらないことから,共同相続人の一人が自己の(暫定的な)持分を処分した場合のみならず,他の共同相続人の持分を処分した場合も含めて遺産分割の対象とできるように、本条の適用を認めるとするのが立法過程での議論です(法制審議会 第20回部会資料18頁以下)。

 

エ 遺産分割前にすべての遺産に属する財産が処分された場合

 では、共同相続人の一人によって,遺産の一部が処分されたのみならず,「遺産の全部」が処分された場合も本条は適用されると考えます。

 この場合には,遺産分割の時点では実際には分割すべき遺産がないことになるから,このような場合にも本条を適用してこれを遺産分割事件として処理することについては,(遺産)共有状態にある財産を分割するという遺産分割の性質を変えることにもつながり,もはや遺産分割とは言い難いという批判もありますが、一部の処分に遺産分割での清算を認め、全部の処分にはこれを認めないというのもおかしな話であり、清算がなされないとすると、相続人間の実施的な公平が図れませんので、本条の適用を認めるべきです。その場合は、実際には代償金の支払いが協議の対象になると思われます。

オ 動産・不動産等の処分の対価を現金で保管している場合

 処分の対価を、共同相続人が現金で保管している場合は、その現金は当然に遺産分割の対象に含まれることになり、本条の適用外であると考えます。

 

⑶改正法の実務上の意義

 これまでの実務においても、遺産分割前に一部の共同相続人により遺産が処分された場合、全員の同意があれば、処分された遺産を含めて遺産分割方法を定めることはできました。したがって、改正法の実質的意義は、処分した相続人の同意がなくても遺産分割協議の対象にできるという点に限られるということになりそうです。そうなると、本条が適用される場面は多くはないかもしれません。また、遺産分割前の預貯金債権の行使(払い戻し)が認められたことと本条との関連も必ずしも明確にはなっていません。今後の実務の運用に注意が必要といえるでしょう。

 

(続く)

弁護士活動コラム   2019年03月12日   admin

「相続法改正」パート5 【弁護士 大江 京子】

遺産分割前の預金の払い戻し(改正法909条の2)

 

1 改正の内容(909条の2)

相続された預貯金債権について、生活費や葬儀費用の支払い、相続債務の弁済などの資金需要に対応できるよう、遺産分割前にも、払い戻しが受けられるようになりました。

改正909条の2は、施行日(2019年7月1日)前に開始した相続であっても、施行日以降に払い戻しをする場合には、適用されます。

 

2 現行制度と改正理由

(1)平成28年12月19日最高裁大法廷判決前

預貯金債権は、可分債権であり相続開始と同時に当然に各相続人が相続分に応じて分割取得し、各相続人において単独行使することができるものであり、遺産分割の対象にはならないとされていました(最高裁判決昭和28年4月8日、同平成16年4月20日)。但し、家裁の実務では、相続人全員の合意があれば預貯金債権も遺産分割の対象にできるとして運用されていました。

(2)平成28年12月19日最高裁大法廷判決による判例変更

上記最高裁は、それまでの判例を変更し、預貯金債権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解するのが相当であるとしました。

(3)改正理由

この判例変更により、預貯金債権については、遺産分割前に、各相続人は単独で行使(払い戻し)をすることができないことが判例上も確定しました。しかし、葬儀費用や生活費、相続債務の弁済などにあてるため、遺産分割が終了する前であっても、被相続人の預貯金の払い戻しを認める需要があることを考慮し、改正法では、例外的に、各相続人が単独で、預貯金債権の払い戻しをすることを認めました。

 

3 相続人が、単独で払い戻しのできる金額の上限

 改正法により、相続人が単独で払い戻しのできる預貯金の上限は、金融機関ごとに判断して、預貯金総額の3分の1に法定相続分を乗じた金額で、かつ、150万円を限度とします。

 例えば、A銀行に被相続人の預金が1200万円ある場合で、相続人が妻とこども2人(長男と次男)がいる場合は、長男が単独で払い戻しを受けることのできる金額は、以下の通り100万円になります。  

 1200万×1/3×1/4=100万円 < 150万

 A銀行以外の金融機関にも預金がある場合は、同様の計算により、上限額まで単独で払い戻しができます。

 

4 相続人が単独で払い戻しを受けたときの効果と実務上の問題点

 (1)一部分割とみなす

 遺産分割前に共同相続人が単独で預貯金の払い戻しを受けたときの効果について、改正法909条の2は、「当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす」と規定しました。「一部の分割によりこれを取得したものとみなす」の意味ですが、共同相続人が払い戻しを受けた金額(例えば前述の例では100万円)は、確定的にその共同相続人が取得し、その金額は、後の遺産分割の対象には含まれないということです(一部分割については後述)。

 

 (2)特別受益と同じで不公平

 このように、単独で払い戻しを受けた預金は、後の遺産分割の対象には含まれない(遺産ではなくなる)とされましたが、一切考慮されないとすると、預金の払い戻しは、特別受益と同様一人の相続人が遺産の先渡しを受けた場合と実質的には同じですので、相続人間の公平を害することになります。

    先の例で、仮に、遺産が、A銀行の1200万円の預金だけだったとすると、長男が払い戻しを受けた100万円は、確定的に長男が取得し、遺産から外れます。

    残りの1100万円を、妻と長男次男で、法定相続分どおりに相続するとなると、

    妻が、1100万円×1/2=550万円

    長男と次男は、それぞれ1100万円×1/2×1/2=275万円

    長男は先に100万円を取得しているので、結局375万円を取得することになります。相続人全員が納得していれば別ですが、このままだと長男が取りすぎで不公平ということになります。

 

 (3)預金の払い戻しを受けて、相続債務の弁済にあてた場合

 では、先の例で、遺産はA銀行の預金1200万円だけで、相続債務が100万円あったとしましょう。長男が遺産分割前に、預金の払い戻しを受けて、その100万円のすべてを被相続人の債務の弁済にあてた場合を考えます。

    相続債務(被相続人が生前に負っていた債務)は、相続によって、当然に各相続人に法定相続分に応じて分割承継されるというのが判例の立場です(最高裁昭和34年6月19日判決)。

    妻が50万円、長男と次男は、それぞれ、25万円ずつ債務を承継することになります。

 上記の判例実務の立場からすると、仮に、相続人の一人が他の相続人の分も含めて相続債務を弁済したとしても、求償権の問題が発生するだけで、遺産分割調停や審判では考慮されないのが原則です。(相続人全員が同意していれば、相続債務についても遺産分割調停の対象とすることができます。)

 妻や次男が、相続債務について遺産分割協議の対象とすることに同意せず、求償(清算)にも応じないときは、長男は、別途、民事訴訟を起こさなければならず、迂遠であり、長男には気の毒な気がします。

 

 (4)預金の払い戻しを受けて、葬儀費用にあてた場合

 先の例で、長男が払い戻しを受けた100万円を全額葬儀費用に充てた場合はどうでしょうか。実際には、遺産分割前に払い戻しを受ける理由として、葬儀費用に充てたいという理由も多いと思います。

 しかし、葬儀費用については、相続債務にも当たらず、異論もありますが、喪主が負担すべき費用という説が実務上は有力なようです。いずれにしても、相続人の一人が預金の払い戻しを受けて葬儀費用にあてたとしても、相続人全員が同意しなければ、葬儀費用や香典について遺産分割協議の対象とすることはできません。 

 

 (5)特別受益を受けている相続人は預金の払い戻しを受けた場合

 では、長男が被相続人の父より、生前に生活費として300万円の贈与を受けていた場合(特別受益がある場合)は、どうでしょうか。

 この場合は、遺産の1200万円に生前贈与分の300万円を加えて相続財産とし(持ち戻し)て、各自の相続分を出し、その金額から特別受益の分を控除して、長男の具体的な相続分を出します。

 1200万円+300万円×1/4-300万円=75万円

 これが長男の具体的な相続分となります。

 そうすると、長男が遺産分割前にA銀行から100万円の払い戻しを受けて取得できるとなると、具体的な相続分を超えることとなり、この場合も、清算が必要となります。しかし、その清算は、原則として遺産分割調停や審判の対象外となり、(2)の例とは逆に、妻や次男が、長男に対して民事訴訟を提起しなくてならないことになります。

5 解決策

 遺産分割前の預金の払い戻しが単独で認められたことにより、上記のような問題が起きないようにするためにはどうしたらいいでしょうか。

 

 (1)最善の策は、いうまでもなく、相続人全員の同意のもとに払い戻しをするということになります。事前に同意を得られなくても、後に全員の納得のもとに遺産分割協議の中で公平に解決できれば何の問題もありません。むしろ、預金の事前払い戻しについては、遺産分割協議や遺産分割調停・審判においても、本来は、その使途をも含めて斟酌して、残余の遺産の分割が公平に行われることが必要であると考えます。

   改正法907条1項2項は、一部分割が認められることを明文で規定するとともに、但し、他の共同相続人の利益を害するときは、この限りでないとしています。遺産分割前の預金の払い戻しは、「遺産の一部の分割によりこれを取得したものでみなす」とされており、他の共同相続人の利益を害することが許されない(望ましくない)ことについては、同様であると言えます。

 

 (2)ただ、相続人全員の話し合いでの解決が期待できないような場合は、各人がそれぞれ上限まで単独で預金の払い戻しを受けるという防衛策を講じるしかないかもしれません。

 

 (3)また、一人の相続人が多額の生前贈与を受けるなどして具体的相続分が明らかにないような場合には、他の相続人は、処分禁止の仮処分決定(新家事事件手続き法200条2項)を受けて、その者が預金の払い戻しをすることを禁止する方策が考えられます。

 

 (4)さらに、遺産分割前に預金の払い戻しを受けて、相続債務の弁済や相続財産の管理費用に充てたり、葬儀費用に充てる場合に、これらの事情を確実に後の遺産分割協議や審判に反映させたいと考える時は、仮分割仮処分制度(新家事事件手続き法220条3項)を利用することが考えられます。この制度を利用して預金の払い戻しを受けた場合は、当該預貯金は、未だ未分割のものとして、遺産分割調停・審判の対象となりますので、当該預貯金の使途を斟酌して、分割方法を決めることが可能です。家事事件手続き法が改正されて、預金債権の仮分割処分制度の要件が緩和され、従来よりは利用しやすくなったと説明されています。ただ、預金の払い戻しを受けるために家庭裁判所に仮処分の申し立てをしなくてはなりませんので、手間がかかることは間違いありません。

 

(続く)

 

弁護士活動コラム   2019年02月28日   admin

「相続法改正」パート4 【弁護士 大江 京子】

自筆証書遺言制度に関する見直し

第1 自筆証書の方式緩和(968条2項)

 

1 改正の内容と改正理由(改正法968条2項、3項)

 自筆証書遺言は、遺言者の意思の正確さを確認するために厳格な要式行為とされ、目録も含めて遺言の全文、日付及び氏名を自書し、押印することが必要でした(旧法968条)。

 この厳格さのために、自筆証書遺言の活用が阻害されていると考えられた結果、目録については自書の必要がなくなりました。したがって、目録については、パソコンの使用や他人による代筆が認められるようになり、通帳のコピーや登記事項証明書を目録として使用することも可能となりました。但し、目録の頁ごとに、遺言者の署名と押印が必要です。また、自書でない財産目録を訂正する場合の方式は従前と変わらないとされており、「遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ。その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない」(968条3項)ので、注意が必要です。

 遺言の方式緩和については、2019年1月13日から施行されています。 

 

2 制度改正のメリットと注意点

 財産が多い場合や、相続人や受贈者が多い場合、分割方法など細かに指定する場合には、自筆証書遺言は不向きであり、できれば公証証書遺言を作成することをお勧めします。自筆証書遺言の厳格な要式に違反していると判断されれば、遺言自体が無効になってしまうなど紛争のリスクが高いという難点があるからです。

 今回の改正で、目録については、自書でなくてもよくなったため、多少便利になったともいえますが、その場合も目録の訂正は要注意です。単純にパソコンで打ち直した訂正後の目録に差し替えるだけでは、968条3項の要求する要式を満たさないとされる可能性があります。目録を訂正する場合は、本文も新たに書き直して、新たな遺言書として作成するほうが無難でしょう。

 

第2 法務局における自筆証書遺言の保管制度

1 新法の制定

 法務局における遺言書の保管等に関する法律が制定され、2020年7月10日から施行されます。

 

2 制度の内容

 自筆証書遺言については、遺言者等が私的に保管する以外になく、このため、遺言書作成後の紛失や隠匿・変造のおそれがあるほか、相続人らが、遺言書の存在を知らずに遺産分割を行い、のちに自筆証書遺言が発見されるなどの事態も生じかねず、かえって紛争の種になるということがありました。

 そこで、自筆書証遺言を確実に保管し、相続人らが相続開始後にその存在を法務局に問い合わせて遺言の存在を把握できるよう自筆証書遺言の公的保管制度が新設されました。

 また、この制度により保管された遺言書は、自筆証書遺言に必要とされていた検認の手続きが不要となりました。

 

3 申請と撤回

 自筆証書の保管は、遺言者自らが、管轄の法務局に出向き申請しなければなりません。

 また、遺言者はいつでも、保管の申請を撤回することができますが、その場合も、遺言者自らが、法務局に出向く必要があります。

 

弁護士活動コラム   2019年02月21日   admin

いのちのボランティア 【事務局 鈴木 清子】

 競泳で活躍している池江璃花子さんが白血病を公表した。

 いま日本骨髄バンクにドナー登録の手続などの問い合わせが相次いでいるという。

 白血病は血液のがんともいわれる。治療薬の投与が行われることが多いが、治療が難しい場合などは骨髄移植が選択肢となる。移植には白血球のHLA型が一致するドナーを探すこととなる。

 

 日本骨髄バンクは1991年に設立された。

 私は1995年に骨髄バンクのドナーとして骨髄液を提供した経験がある。

 骨髄バンクのことをテレビで見て知り登録をした。1年後に2次検査の通知がきたが3次検査の連絡が入ったのはさらに1年くらい後のことであった。

 その後、コーディネーターから連絡が入り、意思確認及び家族の同意の確認があり、窓口となった大きな病院の血液内科の医師から詳しい骨髄移植の説明を受け検査をうけた。

 最終同意書を交わす際には第三者である弁護士も同席をした。この最終同意書に署名後は、骨髄提供の意思を撤回することは出来ない。患者さんはこの時点から造血機能を破壊していき、新しい骨髄液が入る準備をしていくからである。

 広報活動として、役所や企業等の研修で使用する「あなたを待っている人がいる―いのちのボランティア」というビデオを製作するのでご協力をとのことで撮影も行われた。入院前の健康診断と自己血輸血用の採血の日から、入院し、腸骨(骨盤の骨)からの骨髄液採取、4泊5日の入院中の様子が撮られている。

 採取当日は麻酔が覚めた時は気持ち悪さがあった。針を刺した腰の痛みは退院後一週間もたたないうちに消えていき、日常生活に戻った。

 事務所には経緯を説明し、ボランティアのドナー休暇ということで一週間休みをもらっての提供であった。

 そのビデオを見た知人達から、弁護士会や区役所で見たと連絡が入り、多くの人が見ていることを知り、少しは役に立ったのかなと思った。

 

 一年ほど前、事務所の弁護士宛に入ってきたファックスをみて驚いた。

 病院名と日時が記載されており、骨髄採取のための最終同意に、その日立ちあえるかどうかのファックスであった。

 東京弁護士会では、骨髄移植のための骨髄採取の最終同意面談に立会人となる弁護士を派遣する事業を行っており、同弁護士会での研修を受け、昨年立会弁護士としての登録をしたとのことである。

 当事務所、新進気鋭の鹿島裕輔弁護士である。

 骨髄バンクに関わる活動は、ボランティアである。鹿島弁護士は建設アスベスト訴訟や原発被害者弁護団の一員として活躍している。その忙しい中でこの登録をしていたことが、同志を得たような気持ちになりとても嬉しかった。

 

 私は最終同意面談の際、仕事柄、薬害問題や医療事故の訴訟も扱うため、不安もあった。特に全身麻酔などしたことがないことが怖かった。当初、100%安全とはいえないという母親の気持ちを説き伏せてしまったことも思い出され、気持ちがゆれていた。そんなとき、医師と共に、同席してくれた弁護士さんが落ちついていて明るくしっかりと説明をしてくれたことで不安が薄まっていったことを思い出す。

 

 池江さんも、私や鹿島弁護士も、私が骨髄液を提供した当時16歳だった患者さんも、家族や両親、職場や学校の先輩など多くの人たちに支えられている。

 そんな人と人とのつながりの中で、みんな生きている。

 

弁護士活動コラム   2019年02月21日   admin