亡き夫が経営していた会社の滞納税の徴収のために妻・子どもが共有している自宅が差押えされたケースで、国税不服審判所への審査請求を経て差押え・抵当権設定が一部解除された事例 【弁護士 山添】

相談内容

Aさん母子は、亡くなった夫(父)が経営していた飲食店(法人、すでに廃業)が滞納していた国税の担保として、Aさん母子が所有する自宅に抵当権(換価の猶予を原因とする)が設定されており、差押えの通知が届いたということで相談に来られました。通常、法人の税金や債務の弁済が滞っても、個人の財産が差押えされたり競売等されることはありません(個人が保証人になっていたり、個人の財産を担保として提供した場合は別です)。本件では、法人の滞納税の徴収を猶予するかわりに、税務署員が社長の病気療養中にAさん宅を訪れ、事情をよく知らないAさんに、自宅への抵当権設定のための書類に押印をさせていました。自宅はAさんと子の共有でしたが、税務署員は子とは一切面会等せずに、Aさんを介して子の印も押させていました。

解決内容

 協力関係にある税理士のアドバイスも得てこのような税金の徴収方法が不適切であるとの確信のもと、国税不服審判所に対して差押えの解除を求める審査請求を行いました。特に、Aさんの子の持分についての抵当権設定は、面会はもちろん、電話での意思確認等もいっさいなされておらず、この点の不当性を訴えました。国税不服審判所でのAさんの意見聴取を経て、税務当局はAさんの子の持分への差押え・抵当権設定を自主的に解除するに至り、Aさん母子が自宅からの退去を迫られる可能性はほぼなくなりました。

コメント


東京弁護士会
山添 健之
ヤマゾエ タケユキ
Yamazoe Takeyuki
 法人の債務の担保として個人の不動産に抵当権を設定する行為はいわゆる「物上保証」であり、例えば民間の金融機関がこのような行為を行うにあたって、不動産の共有者の意思確認を一切行わないなど、通常あり得ないことです。国税不服審判所での審理でもこの点を強調し、結果として当局が自発的に差押え・抵当権設定を解除しました。Aさんは、いつ自宅が競売されるかわからないと思い悩んでいましたが、安心して自宅に住み続けることができるようになりました。